アメリカ 1

国土が広大な国には「真っ直ぐな道」が多い。当たり前の事です。ところで、真っ直ぐな道が見える風景と、曲がりくねった道が見える風景、あなたはどっちの風景が好きですか?

私は「真っ直ぐな道」の風景は余り好きでは有りません。変化が少なくて面白くないからです。緩く蛇行しながらどこまでも続く田ぼ道は、多くの人々が心に描く日本の原風景の一つだと思います。昔はそれらの道は大抵は「砂利道」でした。今はそれが舗装道路に変ってしまいました。私は、風景としては砂利道のまま残って欲しいのですが、そうは行きませんよね。田舎の細い道に惹かれるのも確かですが、一方で広大な大地も魅力的ですね。

ずいぶん昔の話になりますが、私が始めてアメリカに一人で行った時の事です。私のアメリカ体験、友人に連れられて、様々のアメリカ事情を教そわりながら、行った旅それが始まりでした。次がこの時の一人旅です。レンタカーを借りての、シアトルからスポーケンまでの往復でした。教わっていたアメリカについての知識が、この時の一人旅では随分役に立ちました。最初の旅でもシアトルには行きましたが、その時は、南へ向かいました。東へ向かって山越えをする旅ではありませんでした。同じ場所だったのに、シアトルの印象は全く違いました。何しろ一人ですから、助けてくれる人はいないし、僅かな知識しかないのです。レンタカーで走り始めた直後は相当緊張していました。

私は、高速道路が余り好きではないので、多くの場合旧道を行きます。シアトルから東の方向へ「ルート90」で行けば、スポーケンまで一本道です。でも、私はあえて山中のダム湖の道を遠回りして行きました。道は細かったし舗装もしてないところがかなりあったし、危ない目にも結構合ました。けれど、山中の道を走る事に私の好奇心がそそられました。最初の旅ではシリコンバレーのような乾燥地帯も走りましたし、さすがはアメリカだと思った場所がそこかしこにあったのですが、一人で走る山道は日本の「北海道や中部山岳地帯」と余り変らない感じがして、気楽な気分になっていました。「何だ、アメリカなんて日本と同じようなもんじゃないか」、そんな気分だったのですが、もう少し「異国にいる気分も欲しい」と思いつつの運転になっていました。

山中をあちらこちらで道草を食いながら何時間か走ると、いつしか緩く下る坂道が続くようになりました、曲がりくねった道を一時間も下ったでしょうか、急に、視界を遮る木々がなくなる場所に出たのです。左右に連なっていた山々が遠くに退きました。次には、そこに、大平原(大農園)が現れたのです。真っ直ぐな道が視線の届く限り伸びていました。今まで、グタグタと自分の中にわだかまっていた、「アメリカなんて日本と同じようなもんだ」と言う気分は、一気に吹っ飛びました。私が走った道は、大抵がハイウエーと平行している旧道でしたが、その場所もそうで自由に停車が出来ました。私は思わず車を止めて、そこの地面に立ちました。遠目には、ハイウエーをトラックが疾走している姿が微かに見えました。私は道路脇の地面に立ち、そこで飛び跳ねて見ました。足の裏で地面を感じ取って、「これがアメリカの大地か」と思わずつぶやいていました。そこにしゃがみ込み、地面の土を触り、手の平で地面を叩いていました。「ここはアメリカなんだ!」と、何度も再認識しました。

こんな側道を走る物好きはなかなかいません。地元の住民の生活道路ですから、車なんて滅多に通りません。遠くを走るトラックの群れが、途切れ無く動いていました。鈍い、小さな音が、地面を這うように伝わって来てました。もっと広大な地平線まで見通せる大平原は、地球上には、いやアメリカにだって、幾らでもあるでしょう。でもこの「大平原」こそ、「始めて私が感じたアメリカ」なのです。